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さて、自動車の衝突防止システムの販売などを手掛けるジャパン・トゥエンティワン(株)は、今月 (2016年10月) 3日から、本社を東京都渋谷区から愛知県豊橋市に移転しました。
国の地方創生政策に伴う税制の優遇制度を活用し、東京23区内の本社機能を地方に移転・整備する「移転型」事業の一環として、愛知県内では同社が初の認定になります。
「地方拠点強化税制」とは?
当ブログでは、過去、富山県黒部に本社機能の一部を移転したYKKについて、記事をアップしたことがあります。(こちらの記事参照)
YKKは、地方に本社機能を移転した企業の課税を優遇する「地方拠点強化税制」の適用全国第1号でした。
この「地方拠点強化税制」は、地方創生のために地方で生まれ育ち、そこで働きたい若者のための「しごと」の創出を目指して制定された税制特例措置です。
この制度では、地方に既に本社を持つ企業が、本社機能を強化することを支援する「拡充型」と、東京一極集中の是正のため、東京23区から本社を移転する企業を支援する「移転型」の2つがあります。
具体的には、増加雇用者の人数に応じた税額控除や、オフィスを取得した費用の特別償却があり、自治体が固定資産税、不動産取得税、事業税について減免を行った場合は、国が地方交付税でその分を補填する、といった内容になっています。「拡充型」と「移転型」では、「移転型」に支援が厚くなっています。
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ジャパン・トゥエンティワン(株)の移転理由
同社/加藤充社長は、豊橋市の出身で、移転当日に市役所で会見し「豊橋は次のシリコンバレーを狙える。地方回帰のトレンドを作りたい」と意気込みを語りました。
会見で、加藤社長は移転の理由について、首都圏に比べて事業にかかる経費を抑えられるほか、日本の中心に位置し、近くに製造業の有名メーカーや大学がある好立地などを挙げました。
「ゆったり仕事をする」ため、本社の場所には豊かな自然が残る市の郊外を選び、ログハウス風の建物を改築したとのことです。
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加藤社長は、コストの割高な東京ではなく「これからは豊橋の時代」とした上で、「東京の大企業に入れば一生安泰というのは間違い。地方で大家族と生きるのが良いのではないか」と新たなライフスタイルを提案しています。また、優秀であれば、外国からも人材を呼び入れたいとしています。
同社は、1998年の設立で、現在は自動車の運転支援システムの技術で世界トップシェアを誇るイスラエルのベンチャー企業「モービルアイ」の製品などを取り扱っています。
昨年 (2015年) 1月に、一足早く市内に豊橋オフィスを開設。本社移転後も東京には拠点を残しつつも、加藤社長は「豊橋の比率がだんだん高くなるのでは」と見通しを語っています。
今後、同社は愛知・静岡両県でバス会社やトラック運送事業者に向け、モービルアイを売り込んでいく方針です。また、同製品から得られるビッグデータを活用した新ビジネスも構想しているとか。
最後に
政府は、2015年末に改訂した地方創生の「総合戦略」(P.43) で、企業の地方拠点強化の件数を、2020年までに7,500件増やす目標を掲げました。
しかし、経団連が2015年6月に、東京に本社を置く企業を対象に実施した調査では、回答のあった147社のうち本社機能の移転を「検討中」「可能性がある」との答えは11社にとどまったそうです。目標達成には、さらなる支援策の検討が求められています。
また、民間企業の本社機能の移転を促すべく、中央省庁の地方移転も検討されましたが、結果は、文化庁の京都全面移転が決まった他は、消費者庁が試験的に拠点を徳島に設けることと、総務省統計局の業務の一部を和歌山県に移すことに留まっています。
やはり、経済効率性を優先すれば、東京に留まることが一番かもしれません。
ジャパン・トゥエンティワン(株)の加藤社長のように、東京に比べてコストがかからない地方に居を構え、豊かな自然の中でQOLを上げていくことに価値を見出す経営者が増えないと、地方移転は進まないでしょう。
また、「地方拠点強化税制」以外にも、東京で事業を行う場合の税負担の見直しや、地方移転に係る費用に思いきった補助を出すなど、複合的な支援策を講じて、経営者の背中を押すことも必要と思われます。
働く側の人も、「もうこれ以上、生活コストが高く暮らしにくい東京を離れたい!」という意識の人が増えているといいます。
しかし、地方に移住したいと思っても、一番のネックは仕事があるかどうかです。
この点でも、東京に本社を置く企業が地方に移転すれば、一つの解決策になり得そうです。さて、今後この東京本社機能の地方移転の動きは加速するのでしょうか?
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では、今日はここまでにしますね。
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(2016.10.30記)