さて今日は、関西電力高浜原子力発電所3、4号機 (福井県高浜町) の運転差し止め仮処分申請に対して、大津地裁が運転を認めない決定をしたことについて書いてみます。
高浜原発を巡る事の推移
東京電力福島第1原発事故後に再稼働した原発の運転を禁止する司法判断は初めてのことです。
高浜原発をめぐっては、2015年4月14日に福井地裁で運転差し止めの仮処分決定が出た後、その内容を取り消すよう関電が異議申し立てを行い、同12月24日に仮処分が取り消された経緯があります。
仮処分取り消しに伴い、2016年に入って再稼働へ向けた準備が進められ、1月29日には3号機が再稼働し、2月26日には4号機が再稼働しました。
しかし、4号機の再稼働直前には、1次系冷却水漏れが発生、そして再稼働3日後には原子炉が緊急停止するというトラブル続きになりました。
そうした中で、高浜原発から半径70㎞内に位置する滋賀県の住民が求めた運転差し止め仮処分申請に対して、大津地裁が運転を認めない決定をしたわけです。
これにより、関西電力は現在停止中の4号機に加えて、3号機の停止も余儀なくされました。
大津地裁が運転差し止めを決定した理由
仮処分申し立てでは、原子力規制委員会が策定した新規制基準に基づく安全対策の合理性が争われました。
関電は新規制基準について、「現在の最新の知見を集合した知的信用度の高いものである」と主張しましたが、大津地裁は次のようにこれを退けます。
過酷事故の発生を踏まえたうえで、関電の主張や説明の程度では、新規制基準および高浜3、4号機にかかわる再稼働に必要な原子炉設置変更許可が「直ちに公共の安寧の基礎となると考えることをためらわざるをえない」
具体的には、福島第一原発で問題になった電源確保を例に挙げたうえで、新規制基準に基づく審査の過程について検証しています。
ディーゼル発電機や電源車などを用意していても、「このような備えで十分であるとの社会一般の合意が形成されたといってよいか、躊躇せざるをえない」と言及して、関電の説明は不十分だとしました。
加えて地裁は、使用済み燃料ピット (注:保管施設のこと) が崩壊した際の対処策についても十分であると認められるだけの資料が提出されていないなどと述べています。
再稼働ありき、の姿勢に感じる不安
このブログでも、つい先日「電力会社に原子力発電所を管理する能力はある?なのに、政府はなぜ原発再稼働を急ぐのか?」という記事をアップしました。
今回の大津地裁の決定は、抱いた懸念を裏付けるものでした。
そもそも昨年暮れに再稼働を認める決定をした福井地裁の判断は、高浜原発の危険性が「社会通念上無視し得る程度にまで管理されている」と認定したからでした。
では、そもそも「社会通念」とは何でしょうか?広辞苑では「社会一般で受け入れられている常識」と説明されています。
どうもこれは、原子力規制委員会が定める規制基準の曖昧さから導き出された法的根拠のようです。
例えば、原発が耐えるべき地震の揺れの強さを示す「基準地震動」の具体的な算出ルールは作成されておらず、どこまで厳しく規制するかは原子力規制委の裁量次第になっています。
政府が示している原発再稼働方針に顔を向けた判断を、司法や原子力規制委がすれば、そこには恣意的なバイアスがかかっても不思議ではありません。
・・・ということで、今回の大津地裁の決定が、原発再稼働を巡る今後の議論に資することを願うばかりです。
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さて、今日はここまでにしましょう。
ではまた!
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(2016.3.12記)